どうも、あいうえです。
今日はあまり馴染みがないと思われる物価連動債に投資できるETFを紹介しようと思います。
……とはいえ、やはり馴染みがないだろうということで記事の9割が物価連動債の説明に費やされています。ご了承ください。
ちなみにこの記事では物価連動債とインフレ連動債という二つの言葉を適宜使い分けていますが、二つとも同じものを指しています。
1 物価連動債とは
物価連動債を考える前に普通の債券について考えてみましょう。
普通の債券は満期まで定期的に利子が支払われ、満期を迎えると一気に元本が返済されます。
普通の債券(三年物の場合)
一年目:10円(利子)
二年目:10円(利子)
三年目:10000円(元本)+ 10円(利子)
物価連動債も定期的に利子が支払われ、満期を迎えると元本が返済されるところは同じなのですが、利子・元本の価格が物価によって変動するのが特徴となります。
物価連動債という名前の通り、物価に連動します。
例えば1%インフレしたら利子・元本共に1%上昇しますし、逆に1%デフレしたら利子・元本共に1%下落します。
(注:物価連動債と一口に言ってもいろいろあるので、元本保証タイプがあったりと異なる場合もあります)
本当にそれだけです。これさえ理解しておけばこの記事に書かれていることはすべて理解できます。
2 物価連動債のメリット・デメリット
・メリット
そんな物価連動債のメリットは当然、インフレに強いことです。
通常債券はインフレに弱いとされています。
例えば利率3%の債券があったとして、インフレ率が10%だったら実質損してますよね。実質リターンは-7%です。
もちろん、市場は常に将来のインフレ率を加味して債券価格を決めているので、買った地点に織り込まれている分のインフレ率ならば問題ありません。しかし、一寸先は闇、将来のインフレ率なんて分からないので数年後に急にインフレが亢進する危険もあります
一方、インフレ連動債とも言われる物価連動債は当然インフレ率に従って元本が増えていくので損しません。
というより、利率分の得は保証されています。
例えば以下のグラフはアメリカの物価(青)と日本の物価(赤)の推移です。
物価連動債の元本はこのグラフと同じ動きをします。
インフレ率に関係なく実質面での利益を確保できるというのはインフレ連動債の強みです。
・デメリット
ということで、デメリットはその逆になります。
デフレすれば損します。元本も、利率も減ります。
デフレしているので理論上は損をしていないのですが、気分的には損してますよね……。
インフレに強いというメリットとデフレに弱いというデメリットの等価交換といっていいでしょう。
また、あとでも触れますが物価連動債はインフレの影響は受けないですが実質金利の変動の影響は普通に受けるので注意してください。
3 普通の債券との比較
では、物価連動債と普通の債券の違いを見ていきましょう。
先ほど普通の債券はインフレに弱いと言いましたが実はそんなに弱くありません。
なぜなら、これまた先ほど申し上げた通り債券の利率はインフレが考慮されているからです。
例えばこれからの10年のインフレ率が平均2%だと予想されてるなら、10年物の債券の利率は最低2%となります。それに実質金利が上乗せされる感じです。
そりゃそうです。インフレが予想されてるのにインフレ分の利益すら得られない債券を買う人はいません。これが金融市場の仕組みです。
一方、インフレ連動債はインフレを考慮する必要がないので、実質金利のみが利率となります。
以上のことを踏まえると以下の式が成立します。
インフレ連動債の金利 + 予想されているインフレ率 = 普通の債券の金利
なので、理論上はインフレ連動債も普通の債券もリターンは変わりません。
インフレ連動債は利回りが低いのですが、その分をキャピタルゲインで補うからです。
しかしここで大事なのは「予想されているインフレ率」というところで、もし予想よりインフレしたら物価連動債の方がいい成績を収めますし、予想よりインフレしなかったら普通の債券の方がいい成績を収めます。
それがインフレ連動債がインフレに強いと称される所以です。
しかし、今までの議論を踏まえるとインフレに強いというより「予想外の」インフレに強いと言ったほうが正確でしょうね。
4 実際の物価連動債
前に書きましたが、インフレ連動債はインフレの影響は受けませんが、普通に実質金利の変動の影響は受けます。
実質金利とは先ほどの式に出てきたインフレ連動債の金利のことです。
つまり、実質金利が上がれば債券価格が下がり、実質金利が下がれば債券価格が上がるという性質はあります。
これが実質金利の変動のグラフですが、これによって物価連動債の価格は普通に変動します。意外と動いてますよね、実質金利。
2009年にから2013年にかけて実質金利が3%ほど下降したので、物価連動債もインフレ関係なくこの時期は価格が上がり続けたことになります。
そして債券価格がどれくらい実質金利の影響を受けるかを表したのがデュレーションでした。
デュレーション:金利が1%上がった時に債券ETFの価格が何%下がるかを表したもの。金利が上がると債券価格は下がるので、一般には正の値をとる。
ここで本記事最初で最後のETF談議ですが、ブラックロック社の運用するTIPのデュレーションは7.48年です。
一方、バンガード社が運用する短期物価連動債VTIPのデュレーションは2.5年です。
(いずれも2018年3月現在)
ぶっちゃけ、TIPはデュレーションが長くインフレ率よりも金利の影響を受けやすいです。
その一方でVTIPは短期ということでデュレーションが小さく、金利の影響を受けにくいです。
これは非常に重要で、TIPは短期的には物価よりも金利の影響を大きく受けるということを知らないとTIPのチャートを見誤る原因になります。
もし、短期的(3年以内)なインフレ率の上昇に賭けたトレード(もしくはインフレヘッジ)をしたいならばVTIPを使いましょう。
一方、中長期的なインフレ率の上昇に賭けたトレードをするならばTIPで問題ありません。
5 ゴールドと物価連動債の違い
物価連動債とは切っても切れない縁を持っているのがゴールドなので、ゴールドにも触れておきましょう。
金は文字通り「物」なので、実はインフレに強くデフレに弱いという意味で物価連動債とまったく同じです。
また、実質金利が下がると価格が上昇するというところも金と物価連動債は同じです。
……あれ?なにが違うんでしょう?
一つとしては、金価格の方がボラティリティが大きいことが指摘できます。
物価連動債はしょせん債券。ボラティリティはたかが知れています。一方で金価格はボラティリティがとても大きいです。
金の方は短期的には投機的な動きをしばしばします。
また、金価格は実質金利・インフレ以外にも影響する要素が多いです。
例えば新興国の経済状況。新興国が好調だと消費が増え金価格が上がります。
例えば金の採掘量の変化。供給の増減によっても金価格はかわります。
そういう意味で物価連動債と金は似ているけれども微妙に違います。
それをどれくらい気にするべきなのかというのはわかりませんが、一応気に留めておいた方がいいでしょう。
まとめ
ということで、最後に軽くまとめますと、物価連動債が一番輝くのはインフレ率が高止まりする一方で名目金利が上がらない状況です。(インフレ率が上がり金利が上がらないと実質金利は下がる)
キャピタルゲインとインカムゲインがどちらも最大化される理想的な状況ともいえます。
とはいえ、そのような状況は一般には起こりません。
インフレが起きると中央銀行は名目金利を引き上げ、その結果実質金利まで(一時的に)引き上げるからです。
なので、インフレ率の上昇による利益は実質金利の上昇による損失によって相殺されます。
そういう意味で、物価連動債が得意な時期は「中央銀行が金利を上げようにも上げられない時期」=「経済がヤバい時期」と言えます。EX:スタグフレーション
なので、やはり物価連動債はどちらかというと「予想外のインフレ」へのヘッジの側面が強いと言えますね。
その保険料として、デフレ時に損する(正確には得できない)というリスクを払っているのです。
普通の債券はデフレ時に得できる一方で、予想外のインフレに弱いのとは対照的ですね。
ちなみに、インフレというリスクを背負ってないので、物価連動債は貯蓄をしてアーリーリタイアを目的としている人には最適だと思います。
デフレはリタイアした人には損ではないので、インフレ連動債は神のような債権といえます(先ほども書きましたがデフレしても実質金利分の利益は保証されますし)
唯一にして最大の問題は近頃はインフレ連動日本国債が発行されてないことなんですよね……。一応投資信託ではあります。
米国のはETFを使えば買えますが、ドル円というリスクを背負うことになりますし……。
ということでお読みいただきありがとうございました。
追記:
本記事よりほんの少しだけ詳しく物価連動債を説明した記事があります
インフレ連動債とは何なのか?【そのメリットを投資家・政府両方の視点から解説してみる】
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