あいうえです。スマートベータ連載二回目ということで、まずは低ボラティリティ戦略について扱いたいと思います。
1 ボラティリティとは
まず、ボラティリティとは、株で言えば株価の変動の激しさのことをいいます。
もしボラティリティが高かったら、その株の価格は大きく変わりますし、低かったらあまり変わらないということになります。
2 なぜ低ボラティリティインデックスが生まれたか
当然ですが、低ボラティリティな株というのは株価の変動が小さいです。
言い換えれば、リスク(不確実性)が小さいということになります。
そうなると、低ボラティリティな株というのはリターンも少ないというのが普通の考え方になりますよね。
実際、最初に低ボラティリティ戦略を考えた人も、中リスク中リターンな運用を株でしたかったのでしょう。そのような運用をしたくなるような状況というのはいくつか想定できます。
しかし、歴史的には低ボラティリティインデックスの方が時価総額加重インデックスをアウトパフォームしてきました。
驚きです。
リスクとリターンは正の相関関係をもつというのが一般的です。
もしローリスクハイリターンなんて投資があったら、まあまず詐欺と言っていいでしょうね。それか、ローリスクに見合うだけの他の制約条件があるとか。
しかし、過去において低ボラティリティ戦略はSP500や今でいうVTIをアウトパフォームしてきました。
(低ボラティリティインデックスは単純な上昇相場ではややアンダーパフォームする傾向がありますが、下落相場での下落率が段違いに低いおかげです。つまり、上昇時は同じくらいついていく一方で下がる時だけ少ないという……)
なぜローリスクハイリターンという魔法のような方法が存在してしまったのでしょうか?
3 ローリスクハイリターンの原因を考えてみる
とはいえ、この問いに関しては答えが今のところ存在しないので3つの説を紹介するにとどめておきます。
1 ボラティリティを抑える過程において実は別のリスクが生じていて、ハイリターンはその別のリスクによるものである説
リスクとリターンは正比例するという原則に従うならば、高リターンという現実がある以上別のリスクの存在を仮定するしかありません。
しかし、「時価総額加重をアウトパフォームできるほどのリターンをもたらすリスクが存在しているけれど、それが何なのか未だにはっきりしない」というのは流石に不自然かなと私は思います。
2 行動バイアス説
様々な行動バイアスの存在を考えてみることはできます。
例えば、「投資家は短期間に高いリターンを得られる可能性がある高ボラティリティ株を好むので、低ボラティリティ株は割安になりやすい」とかです。
どのような行動バイアスの結果そうなったのかは分かりませんが、私はこれを支持します。
この説を採用するならば、リターンが高くなったのはリスクを抑えたこと自体が原因ではなく、リスクを抑えるということが、間接的に割安株を選ぶことと同義であったということになるかもしれません。
割安株というとバリュー投資じゃんと思うかもしれませんが、バリュー投資とはあくまで、財務諸表から割安と「思われる」株を選んで投資するというものです。
なので、バリュー投資で使用される方法によって選ばれた株が本当に「割安」であるとは限りませんし、選ばれなかった株が「割安でない」わけでもありません。
割安株を「市場から過小評価されているために将来的に高いリターンをもたらす株」と定義するならば、行動バイアスの結果低ボラティリティな株が割安株になりやすいという可能性があるということです。
3 バックテストを行った期間は株式の中でも異様に暴落が多い時期だった説
低ボラティリティ戦略に限らず、スマートベータはしばしば下落相場で時価総額加重と差をつけています。(当然例外はありますが)
逆に言えば、下落がなければスマートベータは時価総額加重をなかなかアウトパフォームできないとも言えます。
バックテストは株式市場のデータが完全に残っている期間分しかできないので、かなり長くてもここ3、40年のデータであることが多いです。
であれば、その期間が株式の歴史の中でも暴落が多い期間であるとすれば、スマートベータは過大評価されていることになります。
正直、スマートベータが時価総額加重より劣った方法だとするならば、意外とこんな単純なのが原因だという可能性は高いと思うのですが……。
一方で、そもそも暴落は何年に一度起こるのが「普通」なのか分からないという問題点も抱えています。
3 実際の低ボラティリティETFを見てみる
正確にはETFではなくインデックスを見るわけですけど、このサイト的にはETFだろうということでETFを見てみましょう。
運用額の多さを踏まえて、ブラックロック社のiShares Edge MSCI Min Vol USA ETF / USMV を見てみることにします。アメリカを対象にした低ボラティリティETFですね。
USMVの作られ方ですが、まず、低ボラティリティETFというのは元となるインデックスを決めて、それよりも低いベータ値を持つことを目標に作られることを述べておきます。
(「低」と言っている以上、元となる「高」が存在しなければなりません)
USMVはアメリカを対象にしているので、分かりやすく言えばVTIよりも低いベータ値を持つようにつくられています。
しかし、ただ単にベータ値を低くしているわけではありません。
あくまでMin Vol であって、Min Betaではないんですね。
具体的にどのようにして作られるのかを見てみましょう。
(以下に示すのはUSMVが参照するインデックスの作られ方であり、必ずしもすべての低ボラティリティインデックスが同じルールを採用しているわけではありません)
1 基本的にはベータ値をできるだけ低くするように銘柄及びその組み入れ比率を決める。
2 ただし以下の条件を満たすようにする。
1 各銘柄の組み入れ比率は1.5%以下もしくは元となるインデックスの組み入れ割合の20倍以下にする。
2 各銘柄の組み入れ割合が0.05%を下回らないようにする。
(元となるインデックスでの組み入れ割合が0.0025%以下の銘柄を含まないというある種の小型株規制)
3 もしグローバルETFならば、各国の組み入れ割合が最低2.5%以上である。
4 もしグローバルETFならば、各国の組み入れ割合が元となるインデックスの組み入れ割合±5%内に収まるようにする。
(事実上の小国規制)
5 それぞれのセクターの組み入れ割合が元となるインデックスの±5%内に収まるようにする。
6 ベータ値以外のリスク指標が元となるインデックスの指標と大きく乖離していない
USMVはアメリカを対象にしたETFなので3と4は含みませんね。
出来るだけボラティリティを抑えるように頑張っていることが分かりますよね。
セクター比率の規制は注目してもいいと思います。
せっかくなのでクイズです。
下の2つの画像のうち、片方はSP500に連動するIVVのセクター比率です。
そしてもう片方はSUMVです。どれがどれだか当ててみてください。
(VTI使えよとの声もありますが、VTIはバンガード社のなのでクイズにならないのです)
ブラックロック社より引用
ここまで引用
まあ真面目に考えてくれた人はいないと思うのでさらっと答えを書きますと、上がSP500で下がUSMVです。
USMVは情報技術・金融・一般消費財・エネルギーの割合が低く、ヘルスケア・生活必需・公益の割合が高いです。
(一部において±5%を超えているのは、リバランス直後じゃないからです)
まあ、ディフェンシブと一般に言われているセクターの割合が高いということで予想通りといったところでしょうか。クイズとしては難易度が低いものでした。
また、安定して他セクターをアウトパフォームしてきたとされるヘルスケア・生活必需品セクターの割合が高いのは面白いですね。
低ボラティリティ戦略はそれらのセクターを多く含むからハイリターンなのか、それらのセクターは低ボラティリティだからハイリターンなのか……。鶏と卵の話が想起されます。
肝要なのは、なぜセクター比率規制をしているかということです。
おそらく、元となるインデックス(VTI)と大きく離れたセクター比率になってしまうと、想定外のリスクを背負うことになると考えているのでしょう。
結構前に書いた「ボラティリティを抑える過程において実は別のリスクが生じていて、ハイリターンはその別のリスクによるものである説」がある程度念頭にあると思います。
ハイリターンをもたらすかはともかくとして、低ボラティリティETFが低ボラティリティでなくなったら詐欺ですから、そこを実現するために頑張っているのでしょうね。
せっかくなので銘柄の割合も見てみます。1.5%を超えている銘柄があるのはリバランス直後じゃないからです。
ブラックロック社より引用
ここまで引用
残念ながら銘柄の組み入れ割合の決め方はよくわからなかったのですが、パッと見る限り時価総額の大きい企業が上に来ていますね。
しかし、完全な時価総額加重ではないようです。
次はチャートです。2011年からと期間は短いのですが、それでもなかなか興味深いチャートが見れます。
青がUSMV、水色がVTIです。
yahoo finance より引用
ここまで引用
基本的にVTI > USMV という傾向があることが分かります。
しかし、USMVがVTIを上回っている部分がありますね。チャイナショック直後です。
チャイナショックはまだ比較的浅いものだったため、少ししてVTIが再度抜き返していますが、逆に言えばチャイナショックだけでVTIが2年ほどかけてつけた差が埋まっています。
低ボラティリティインデックスが時価総額加重インデックスをアウトパフォームしてきた理由の一端がここに見て取れると言っても過言ではないでしょう。
ただ、最近の下落では低ボラティリティの意味はなかったみたいですね……。
金利上昇による下落ということでディフェンシブ株が売られやすい環境だったからかもしれませんね。
金融危機レベルでは今後もそのディフェンシブ性を高く発揮してくれると思います。
最後に、各種指標を見てみます。
すべて2018年2月現在のデータです。
ブラックロック社より引用しています。
PERは22.85、PBRは3.44です。
この数字自体に意味はありませんが、SP500と比較したときに、低ボラティリティ戦略が低PER・PBRというわけではないようです。
SP500と比較したベータ値:0.77
(VTIとSP500は動きがほとんど同じなので、VTIと比較したと言っていいでしょう)
まあ、ベータ値が低くなければお話になりません。ちゃんと低ボラティリティですね。
配当利回り:1.71%
配当利回り自体に意味はありませんが、これは少し意外でした。VTIと比較して大差ありません。
高配当株式は低ボラティリティだろうと思っていたので予想が外れた形です。
組み入れ銘柄:207
まあこんなもんでしょうね。
また、このETFは国内証券会社での取り扱いはありません。
もし低ボラティリティインデックスに投資するなら、海外の証券会社を利用するか、もしくは投資信託の利用が必要になります。
日本株ならば、TOPIXの低ボラティリティインデックスに投資する方法があったはずです。
4 まとめ
とはいえ、今後低ボラティリティ戦略が時価総額加重をアウトパフォームするか否かは分かりません。分かっているのは、過去においてはそうだったというだけです。
低ボラティリティ戦略は、株式が好調のときにはやや時価総額加重をアンダーパフォームするとかなり前に述べましたが、今のところは正しいようです。
しかし、アンダーパフォームと言っても「わずかに」下回っているという感じなので、下落相場が来た時に目論見通り下落幅を抑えられたらまたもや低ボラティリティ戦略の勝利という感じになりそうです。
次の暴落時にはぜひ注目しておきたいスマートベータです。
お読みいただきありがとうございました。
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