どうも、あいうえです。
今日は投資の勧誘でよく使われる「複利の力」というワードについて考えていこうと思います。株式の平均リターンは年7%!みたいなよく聞くあれですね。
思うに、これは間違っているとまでは言わないもののいくつもの面で非常に危ういものなので、それに対する注意喚起をしていこうと思います。
1 株式は債券ではないという当たり前の事実
株式の平均リターンは年7%とはよく聞く数字ですが、そもそも株式に平均リターンという概念を持ち込むこと自体がどこかおかしい話です。
債券、それも国債であれば名目リターンは確約されているのでまだいいのですが、株式をあたかも7%の利回りを保証してくれる債券のように扱うのは非常に変です。
債券、それも国債ですら名目リターンしか保証できないのに、株式があたかもリターンを、それも実質リターンを保証してくれるわけがありません。(7%という数字は実質リターンとして使われることが多いです)
え、長期的にみたら実際そうなるんだから問題ない……ですか?
その事実は私も認めますが、しかしそれでも、私はそれに対して苦言を呈さなければなりません。
2 「長期的なリターン」の話しかしないのは景気サイクル終盤の典型的な現象
これは1972年から2017年までのアメリカ株のリターン(インフレ調整済み、縦軸は対数スケール)です。
これは対数スケールなので、株式市場が指数関数的に上がっていく(年N%の複利で上がっていく)のならば、直線を使って近似することができます。
ふむ、確かにいい感じに直線で近似できそうですね。綺麗な直線がみえる……みえるぞ!
しかし、よくよく見てみると結構怪しい時期があります。
まずは開始直後。たまたま開始直後に大幅下落に遭遇していますが、その人が投資元本を回収したのは1984年前後です。
あと、他のに紛れて地味に目立っていませんが、1987-1991年の間も株式は低迷しています。そして近頃になると2001-2012年前後までも似たような停滞を見せていますね。
1972-1984、1987-1991、2001-1012。この何十年という間に株式はこれだけの長期的な停滞を見せているのです。
もう一つグラフを見てみましょう。
これもインフレ調整済みリターンを描いたグラフなのですが、非常に面白いことになっています。
これは、あえて株式にとって最も都合の悪い時期を取り出したグラフなのですが、青線が株式、赤線が米10年債、黄色線が現金を保有した場合のリターンのグラフです。
(全てドル建て)
株式の平均リターンを語るとともに馬鹿にされがちなアセットクラスというのが「債券」と「現金」(曰く、債券は長期リターンでは株式に勝てないだの、現金保有は馬鹿を見るだの)なのですが債券は2000-2017年にかけて株式をアウトパフォームしてますし、現金ですら2000-2012年にかけて株式に対してトータルリターンで負けている年がありません。
もちろん、これは100年に1度の金融危機を含むなど株式にとって非常に都合の悪い時期であったとともに、債券にとっては非常に都合の良い時期(金利が下がり続けた)、そして現金にとってもよかった時期(インフレ率が安定していた)を切り出したものなので非常に、というか恐ろしいまでに恣意的なグラフです。
しかし、株式投資を始めるタイミングによっては十年間も債券はおろか現金にすら勝てない場合があったというのは事実です。
十年は景気サイクル一周分だから譲るにしても、十七年を「短期」だと言い張るのはさすがに見苦しいでしょう。40歳から始めてたらもう定年間際ですからねぇ。
そしてここでこの項のタイトルを回収するのですが、長期的なリターンのことばかりが語られるのは景気サイクル終盤特有の現象です。
上げ相場が何年も続き「あれ、株式のリターンって安定してね?」となった時にしばしば「長期リターンでは年7%」だとか、「株式のリターンは絶対に債券より上」だと言われるのです。
ここ数年のリターンは年7%どころか年10%であることになぜか違和感を感じないのです。(なお、私は違和感を「感じる」という言葉は誤りであるという主張を断固として認めない一派です)
先ほどのグラフは確かに恣意的なものでしたよ?
しかし、株式が底を打った2003年や2009年に投資を始めた人の数は、足し合わせたところで悪夢の始まりともいえる2001年に始めた人より少ないでしょう。
株式が大幅に下落して、何年も高値を超えないという状況に耐え切れなくなってようやく「あぁ……自分のリスク許容度って思ってたより少なかったんだな……」ということに気付き、相場から消えていくのです。それが相場の歴史です。
株式を年7%のリターンをもたらす債券だとみなすのはやはり馬鹿らしいことなのです。平均が正であるという事実だけを提示することはリスクの過小評価を誘引し非常に危険かつ無責任なことです。
3 とはいえ……
とはいえ、私を含めた多くの人は給料から投資資金を捻出してるわけで、基本的には積み立て投資形式で投資を行っています。なので、2000年から投資を始めても上に書いたようなことは起こりません。積み立ての場合、株式の相対的なリターンは改善しているでしょう……ちゃんと投資を続けているという仮定のもとですが。
(その仮定を満たせる人がどれくらいいるかについても私は非常に懐疑的です)
うん、まあ、やっぱりあのグラフは非常に恣意的というか、これは地味な奇跡なのではないかと思うくらいにはこの記事の内容にとって都合のいいものです。
しかし、しかしです。あのグラフを見てしまうと読者の皆様に「株式の平均リターンは年7%」と述べることは非常に無責任であるという風に思います。
光陰矢の如しとは言いますからね、無心で過ごせばその程度のドローダウンなんて乗り切れるぜと思う人、そして実際に乗り切れる人もいるとは思うのですが、まあ、歴史を振り返ればほとんどの人がそれを実行できなかったのが事実です。
(相場の値動きを振り返ることに熱心な人に限って相場の歴史の方は振り返らない現象は非常に不思議です)
ことわざシリーズでいくと、喉元過ぎれば熱さ忘れるというのもあります。人生におけるつらい時期も過ぎてしまえば忘れてしまうのです。その結果「ドローダウンなんて余裕じゃね?俺にはデータがある」みたいな風に、将来待ち受けているであろう辛い時期を過小評価してしまうのです。
そしてドローダウンの時期に投げ売りをしてしまい、投資を止めてしまうのです。
さいごに
当ブログのタイトルには長期投資というワードが含まれていますが、何度か書いているとおりその意味は「長期間に渡って投資をする」というものです。決してバイアンドホールドをするという意思表示ではありませんん。
世の中にはバイアンドホールドで成功した投資家がいます。それは事実です。最大限の賛辞を贈りましょう。
しかし、その裏ではバイアンドホールドを目論んで失敗した投資家が山ほどいることを忘れてはなりません。バイアンドホールドを目標にして狼狽売りした投資家がどれほどいたか。
本サイトの投資方針は一貫しています。
長期投資は富をもたらす。しかし、最大のリターンを追い求める必要などない。リスク管理は自分が投資を止めてしまう確率を考慮すべきだ、です。
参考:ロボアドバイザーに潜むデメリット・欠点とは【リスク許容度と年齢の関係】
そして「私は違う」という言葉と「This time is different」という言葉が全く同じであるといういうことに気付かなくてはなりません。
お金の限界効用など逓減していくものなのです。大金持ちよりも小金持ちを目指せばよいのです。
お読みいただきありがとうございました。
追記
ちなみにこんなグラフを作ったりしました。ぜひ見てみてください。
【SP500インデックス投資の長期実質リターン】円建てSP500の長期グラフ(インフレ調整済み・1965-2015年)