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【トルコリラの下落が止まらない理由はなに?】トルコのエルドアン大統領の唱える経済学説を解説してみる


どうも、あいうえです。

 

今日はトルコリラ騒動を巡るエルドアン大統領の主張の元になってる経済についての学説を紹介しようと思います。

 

日銀が行っているような量的緩和の是非についても絡んでくる(というか本当はそちらの方が重要)ので、トルコにはあまり関心ねーわという人もどうぞ。

 

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1 新フィッシャー主義について

 

世の中には、一般の中央銀行がとる行動とは真逆の行動をとることを推奨する新フィッシャー主義というものがあります。

 

セントルイス連邦準備銀行のブログに分かりやすい説明があったので、それの都合のいい部分を抜粋して訳しましょう。

Was Irving Fisher Right on Raising Inflation? | St. Louis Fed

 

以下訳。

 

2007-2009年の金融危機において米国を含む世界中の中央銀行は金融市場の混乱、高い失業率、低い成長率に対処するために金利を下げ、様々な非伝統的手段に頼りました。しかし2016年現在、中央銀行の多くは目標を下回るインフレ率に見舞われ、そしてそれに対して無力であるように思われます。
(訳者注:2018年現在状況は変わっていません)

 

慣習的に、中央銀行はインフレ率がターゲットインフレ率を上回る時に名目金利を引き上げ、下回るときに名目金利を引き下げます。なぜなら金利を上げることは消費を抑え、経済を冷やし、インフレを抑えると考えられており、一方で金利を下げることは消費を増やし、経済を活性化し、インフレを促進すると考えられているからです。

 

しかし、中央銀行のインフレコントロールが誤っていたとしたらどうでしょうか?よく知られ、ほぼ全ての主流マクロ経済学の構成要素になっているものとしてフィッシャー効果――名目金利とインフレの正の相関関係――があります。(下図)

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多くの経済学ではフィッシャー効果をインフレ率が名目金利に影響を与えているのだと解釈しています。(つまり、インフレ率の上昇が先にあり、インフレ率の上昇によって名目金利が上昇している)

 

しかし、ここで一度この考えを忘れることにして、名目金利がインフレ率に与える影響について考えてみましょう。一般に、これは新フィッシャー主義と呼ばれています。

 

新フィッシャー主義は、インフレ率を抑えるためには名目金利を引き下げ、高めるためには名目金利を引きあげる必要があると主張します。

 

なぜそのような主張が成り立つのでしょうか?

 

まず、名目金利とインフレ率、実質金利には以下の関係があります。

 

名目金利(R)=インフレ率(π)+実質金利(r)

 

ここで中央銀行が名目金利を引き上げ、それを維持したとしましょう。

これは広く受け入れられていることなのですが、Rの増加は短期的にはrの上昇を引き起こし、経済を冷やします。しかし、これまた広く受け入れられていることなのですが、長期的にはRはrへの影響力を失います。

 

するとどうなるでしょうか、1パーセント上昇したRは長期的にはπの増加を引き起こすことになります。つまり、1パーセントのインフレです。
(下図。横軸は時間。時間の経過とともに名目金利の実質金利への影響が失われ、インフレ率の増加を引き起こしていることを表している)

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(訳者注:ここまでをまとめますと「名目金利の引き上げは長期的にはインフレ率の向上をもたらすのでインフレを押さえたかったら利下げを、名目金利の引き下げは長期的にはインフレを抑えるのでインフレを引き起こしたかったら利上げを行うべき」というのが新フィッシャー主義の主張です)

 

新フィッシャー主義の理論によれば、テイラー主義の中央銀行(慣習的な方の中央銀行)の金利は必然的にゼロになってしまいます。

 

どういうことでしょうか。インフレ率が低下すると中央銀行は名目金利を引き下げます。すると、フィッシャー効果によりインフレ率が下がります。するとまた中央銀行は名目金利を引き下げます。するとまたフィッシャー効果により……最終的に中央銀行は名目金利をゼロに設定し、インフレ率を上げる能力を失うのです。

 

確かに、これは単なる理論なのかもしれません。中央銀行は何が起こっているのかを正しく認識し、この傾向に陥ることない……いえ、残念ながらそうではありません。最もわかりやすい例は日本銀行です。日銀が金利を0付近に引き下げてからおおよそ21年が経過します。しかし、今だ2%のインフレ目標を達成できていません。

 

ここ数年、そんな低インフレ政策トラップクラブの会員が増えています。欧州中央銀行、スウェーデン、デンマーク、スイス。アメリカも昨年政策金利を引き上げるまでその会員でした。おおよそ4年、インフレターゲットを達成していません。

(訳者注:全部2016年地点での話です。今もあまり変わってないですが)

 

そんな中央銀行がしているのは非伝統的金融政策です。もはや、非伝統的金融政策は一般のものになりました。彼らはマイナス金利、量的緩和、将来へのコミットメントを主にしています。しかし、新フィッシャー主義によるとそれに効果はありません。

 

まず、当然ながらマイナス金利は逆効果です。次に、量的緩和についてはいくつかの研究が、量的緩和は機能しないかインフレ率を押し下げる作用があると示しています。(訳者注:参考文献として挙げられている研究は記事の著者の研究です。それはそれでどうなんでしょう)これは日本をみても分かります。また、低インフレが続く限り非伝統的金融政策を続けるというコミットメントは問題の先送りでしかありません。

 

ここまで訳

 

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2 新フィッシャー主義からエルドアン大統領の行動を考えてみる

 

さて、新フィッシャー主義をとりあえず理解できたところでエルドアン大統領の主張を見てみましょう。

 

そもそもの話として、いくらトルコリラが下落してもインフレさえ起きなければさほど国民経済に影響はありません。

 

また、新フィッシャー主義によると、ここで通貨防衛のために急いで金利を引き上げると(しばらくの間はインフレが抑えられますが)長期的にはインフレ率の向上を引き起こします。

 

短期的には抑えられるんだからとりあえずあげて、少ししたら下げればいいじゃんと私は思うのですが、エルドアン大統領はこの新フィッシャー主義を根拠として中央銀行に圧力をかけ、最初から上げるなと主張しています。「上げたらインフレが起きて国民がこまるじゃないか!」みたいな?

 

通貨下落によりインフレ圧力は高まるが、適当に放っておけば輸出産業が盛んになるから問題ないみたいな感じだった記憶があります。……それもそれで間違っていません。

 

新フィッシャー主義に基づくならば、エルドアン大統領の行動はかなりの部分で正しいと言えます。いや、それでも短期的な金利引き上げは正当化されるのではないかと私は思うのですがね。

 

そして市場は新フィッシャー主義を知らないのか、信じていないのかそれを受けて下落している――というのが今回のトルコリラ下落です。

 

しかし、エルドアン大統領がミセスワタナベたちに〇〇だの〇〇だのボロカスに言われている一方で、実のところ、新フィッシャー主義を否定する根拠はそんなにないです。その事実は知っておいて損はないでしょう。

 

まあ、いいように今回の騒動を形容するならば「エルドアン大統領と市場の経済学説を巡る高尚な戦い」ですね。ふたを開けてみればそれだけの話です。

 

ということでここからは余談として次項で新フィッシャー主義について少し考えてみます。

 

3 新フィッシャー主義の是非について

 

市場の反応のとおり、市場はあまり新フィッシャー主義を信じていません。

 

おそらく、インフレを引き起こすためには利上げを、抑えるためには利下げを行うという理論に拒否反応を起こしているのでしょう。アベノミクスを始め、ほぼすべての中央銀行の政策に反しているからかもしれません。

 

それに、名目金利がインフレ率に影響を与えるというのも直観に反しています。当然、私の直観にも。普通はインフレ率が名目金利に影響を与えると考えますよね。

 

しかし、新フィッシャー主義の理論を受け入れると量的緩和を始めとした非伝統的金融政策がそのリスクの割にほとんど成果をあげられていないことを説明できます。

 

一応注記しておきますが、新フィッシャー主義とはある程度長い時間軸(一年くらい)で見ると名目金利を下げることがインフレ率を下げるという理論です。

 

特に日本において長引くゼロ金利こそが低インフレの原因だったというのは非常に魅力的な議論ではないですか。

 

少なくとも、永遠に出口のないリフレ政策に邁進するよりは新フィッシャー主義を採用して少し金利を上げてみた方が私にはいいように思えますが……。新フィッシャー主義的にはある程度経済が安定したら利上げをしたほうがインフレを引き起こせます。

 

まあ円高の二文字を忌み嫌うアレルギー患者には無理な話ですかね。中央銀行の独立性についてもトルコをまったく笑えない国ですし、どこぞのなんちゃら支持率がさがるかもしれないということで圧力がくるでしょうね。

 

新フィッシャー主義は、少なくとも私の手元にあるマクロ経済の本にも書かれているくらいにはそこそこ知られていると思うのですが、なぜかあまり聞きません。

 

まあ、完璧な理論などないように、新フィッシャー主義も完璧じゃないというだけの話なのですが……。新フィッシャー主義の部分をリフレ政策に変えるだけで話が通じなくなる人が多いです。お前は経済の素人とか言われます。

 

お読みいただきありがとうございました。

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